本記事では、エンバーミングの基本知識から相場の詳細、依頼すべきケースや代替手段との比較、さらに費用を節約するためのポイントについてわかりやすく解説します。
エンバーミングとは?
エンバーミングの基本概要
エンバーミングは、遺体の腐敗を防ぐための技術です。遺体を衛生的に保ち、外観を美しく整えることで、故人との最後のお別れをより穏やかに、そして尊厳を持って行うことを目的としています。エンバーミングは、主に火葬までの期間が長くなる場合や、遺体を海外に輸送する場合などに用いられます。
エンバーミングの歴史と普及率
エンバーミングの歴史は古く、古代エジプト文明においてすでにその技術が確立されていたと言われています。現代では、アメリカやヨーロッパなどでは一般的な技術として普及しており、葬儀の際にエンバーミングを行うことが一般的です。
一方、日本では、火葬が主流であることや、宗教的な観点から、エンバーミングはそれほど普及していません。しかし、近年では、遺族の希望や、海外との交流の増加に伴い、エンバーミングに対する関心が高まっています。
国内でのエンバーミング処置年間推移件数
日本国内でもエンバーミングの処置件数は年々増加しており、2017年の集計42,760件、2023年の集計75,890件と増加の傾向になっています。(出典:一般社団法人IFSA(日本遺体衛生保全協会))
重要性と選択ポイント
エンバーミングは、遺族にとって、故人との最後のお別れをより穏やかに、そして尊厳を持って行うための重要な選択肢となります。エンバーミングを行うことで、遺体を衛生的に保ち、外観を美しく整えることができます。
また、遺体の腐敗を防ぐことで、長期間にわたって故人と対面することが可能になります。エンバーミングの選択は、故人への思いやりと、遺族の心の安らぎにつながる重要な決断です。
エンバーミング費用の相場とは?
基本料金と追加費用
エンバーミングにかかる費用は、一般的に15万~25万円程度が相場です。この金額は、IFSA(一般社団法人 日本遺体衛生保全協会)によって定められている基本料金で、多くの業者で大差はありません。
基本料金には、ご遺体の消毒や損傷の修復、防腐処置、着付けやお化粧代が含まれています。ただし、ご遺体の搬送費や施術までの安置費、損傷の具合による追加費用が別途必要になります。事前に葬儀社へ確認しておくことが重要です。
エンバーミングは特殊技術を要するため、葬儀費用とは別に発生することを覚えておきましょう。
料金が高額になる理由
エンバーミングは、専門的な技術と設備が必要となるため、専門施設が限られています。エンバーミングの費用が高額になる理由としては、2023年現在で、32都道府県86施設が存在していますが施設が少ないため、エンバーミング処置を待つ期間に安置費用が増えたり、最寄りの施設が遠いために搬送費用がかさむ場合があります。
また、エンバーミングの施術内容によっては、追加費用が発生する場合があります。例えば、遺体の状態によっては、特殊な処理が必要となる場合があり、その費用が追加されることがあります。
費用を抑えるための具体策
エンバーミングの費用を抑えるためには、いくつかの方法があります。例えば、搬送費を抑えるために、自宅から葬儀場までの距離が近い葬儀社を選ぶことが考えられます。
また、エンバーミングの施術内容を簡素化することで、費用を抑えることも可能です。さらに、遺族が故人の着替えなどを準備することで、追加費用を抑えることができます。エンバーミングの費用は、事前に葬儀社とよく相談し、納得のいく内容で契約することが大切です。
エンバーミングが必要な場面とは?
感染症リスクを避ける
エンバーミングは、感染症のリスクを避けるために有効な手段です。遺体は、死後時間が経つにつれて腐敗が進み、細菌やウイルスが発生する可能性があります。エンバーミングを行うことで、遺体を衛生的に保ち、感染症のリスクを軽減することができます。
特に、感染症の恐れがある場合や、遺族が感染症のリスクに不安を感じている場合は、エンバーミングを検討する価値があります。
遺体の長期保管が必要なとき
火葬までの期間が長くなる場合、エンバーミングは遺体を良好な状態に保つために有効です。遺体は、死後時間が経つにつれて腐敗が進み、外観が変化していきます。エンバーミングを行うことで、遺体の腐敗を遅らせ、長期間にわたって故人と対面することが可能になります。
また葬儀社の安置室等を利用すると費用がかさんでしまう場合は、エンバーミングの方がコストパフォーマンスが高くなる場合があります。
特に、海外からの遺体搬送や、家族が遠方に住んでいる場合など、火葬までの期間が長くなる場合は、エンバーミングが有効な手段となります。
遺体の損傷が激しい場合
納棺師が対応できないような遺体に損傷がある場合に、遺族が損傷の復元を望んでいる場合はエンバーマーの技術により生前の姿に近づけることが可能になります。
エンバーミングの技術を持っている人を「エンバーマー」といい、IFSA認定の専門資格をほとんどが所持しています。
海外輸送の場合
遺体を海外に輸送する際は、防腐処置が義務付けられている国があります。エンバーミングは、遺体を海外に輸送する際に必要な防腐処置の一つです。エンバーミングを行うことで、遺体を衛生的に保ち、海外への輸送に適した状態にすることができます。
海外輸送を検討している場合は、事前に大使館や航空会社に問い合わせ、必要な手続きや書類を確認することが大切です。
エンバーミングの代替手段とその比較
ドライアイスとの比較
ドライアイスは、遺体を冷却し、腐敗を遅らせるための手段として用いられます。ドライアイスは、エンバーミングに比べて費用が安く、手軽に利用できるというメリットがあります。1日あたり5,000円~10,000円程度が相場で、葬儀までの4~5日間使用することが多いため、費用は総額で2~5万円程度になります。
しかし、ドライアイスは、効果が限定的で、遺体の腐敗を完全に防ぐことはできません。また、ドライアイスは、部分的にしか保冷できないため、触れている部分の皮膚が黒ずんでしまうリスクがあり、また10kg近い重量をお身体に乗せるため、見た目や処置の負担が心苦しいと感じる方もいます。その他、ドライアイスは、定期的に交換する必要があるため、手間がかかります。
エンバーミングは、ドライアイスに比べて費用は高額ですが、遺体の腐敗をより効果的に防ぐことができます。また、エンバーミングは、遺体の外観を美しく整えることも可能です。
保冷庫保管とエンゼルケア
保冷庫保管とエンゼルケア・湯かんは、遺体の保存やお別れのための大切な選択肢です。それぞれにメリットとデメリットがあり、ご遺族の状況や希望に応じて適切な方法を選ぶことが重要です。
保冷庫保管の費用は1日あたり1万円程度で、季節に関係なく一定の温度で遺体を保つことができるのがメリットです。ただし、日数に比例して費用が増加し、納棺済みであれば限られた時間しか対面できないという制約があります。また、長期保管には別途費用がかかります。
エンゼルケアと湯かんは、エンバーミングのような防腐処置とは異なり、亡くなった方の身体を傷つけることなく、ぬるま湯やタオルで清め、着替えやお化粧を施す儀式です。
湯かんの費用は5万~10万円が相場で、故人の見た目を整え、最期の尊厳を保つために行われます。エンゼルケアは主に医療従事者によって行われ、お身体をケアしつつ、ご遺族が直接立ち会えることが多いです。
どちらも故人の美しさを保つことを目的としていますが、防腐効果はないため、葬儀までに時間がかかる場合には、エンバーミングの併用を検討することが望まれます。
エンバーミング依頼時の注意点
エンバーミングを依頼する際の注意点は、いくつか重要な要素を考慮する必要があります。以下の4つのポイントを押さえておくと、トラブルや後悔を避けることができます。
1. 総額費用の確認
エンバーミングの基本費用は15万~25万円程度ですが、棺代や搬送費などが別途発生します。総額が予想以上に高くなることもあるため、葬儀全体の予算を確認し、無理がない範囲で検討しましょう。また、葬儀社にトータルの見積もりを依頼することも重要です。
2. 小切開の必要性
エンバーミングでは1~2cmの小切開が必要です。遺体に手を加えることに抵抗を感じる方もいますので、家族全員でしっかりと話し合い、同意を得たうえで決定しましょう。
3. 専門施設の確認
エンバーミングは専門の施設でしか行えません。自宅の近くに施設がない場合は、遠方まで遺体を運ぶことになります。搬送にかかる時間や費用も考慮し、事前に施設の所在地を確認しておくことが大切です。
4. 疑問や不安の解消
不安や疑問点を残したまま依頼すると、後悔やトラブルの原因になります。十分な説明を受け、納得したうえで施術を依頼しましょう。納得できない点があれば、遠慮せずに葬儀社や専門家に相談することをおすすめします。
エンバーミングは、ご遺体の保存と美しい見送りを実現するための手段ですが、その費用やプロセスについて十分に理解し、慎重に判断することが大切です。
エンバーミングのまとめ
エンバーミングの選択が心の安心につながる
エンバーミングは、故人との最後のお別れをより穏やかに、そして尊厳を持って行うための重要な選択肢となります。エンバーミングを行うことで、遺体を衛生的に保ち、外観を美しく整えることができます。また、遺体の腐敗を防ぐことで、長期間にわたって故人と対面することが可能になります。
エンバーミングの選択は、故人への思いやりと、遺族の心の安らぎにつながる重要な決断です。エンバーミングについて、その役割と費用を理解し、故人との最後のお別れをより穏やかに迎えることができるようにしましょう。