この記事では、エンバーミングの有効性・必要性について詳しく解説し、ご遺体とのお別れに後悔しないためのポイントを紹介します。
エンバーミングの基礎知識
エンバーミングとは何か
エンバーミングとは、遺体を衛生的に保ち、外観を美しく整えるための処置です。主に、遺体の腐敗を遅らせ、長期間保存することを目的として行われます。
具体的には、遺体の洗浄、消毒、防腐処理、化粧などが含まれます。日本では、近年、エンバーミングは葬儀の選択肢の一つとして注目されています。
法律上の位置づけ
日本では、エンバーミングは法律で義務付けられていません。そのため、エンバーミングを行うかどうかは遺族の判断に委ねられます。ただし、エンバーミングを行う場合は、医師の許可が必要となる場合があります。
また、海外への遺体搬送を希望する場合、受け入れ国の法律でエンバーミングが義務付けられている場合もあります。
エンバーミングが必要な場合
エンバーミングが必要になる場合は以下です。
- 故人が亡くなってから葬儀まで日数が空く場合
- 故人が感染症で亡くなった場合
- ご遺体の損傷が激しい場合
- 故人をきれいな姿で見送りたい場合
- 海外からご遺体を搬送する場合
1.故人が亡くなってから葬儀まで日数が空く場合
エンバーミングは、遺体を長期間保存したい場合に有効です。例えば、海外在住の家族が帰国するまで遺体を保存したい場合や、故人の希望で一定期間遺体を安置したい場合などに、エンバーミングが選択肢となります。
また、葬儀場や火葬場の混雑などで、亡くなってから火葬までの日程が空いてしまう場合は、エンバーミングを施すことが望ましいと言えます。
2.故人が感染症で亡くなった場合
ウイルスや細菌は、亡くなったあとも数時間は生き続けます。特に感染力の強い肝炎ウイルス、敗血症(MRSA)、結核症等重症感染症などの感染症にかかったご遺体であっても、エンバーミングは、体内も消毒洗浄するため、感染の心配がなくなります。
その結果、免疫力の弱いご年配の方も安心して通常の葬儀に近い形で参加することが可能になります。
参照:日本遺体衛生保全協会HP 感染症の実態
3.ご遺体の損傷が激しい場合
事故や災害で大きな損傷を受けたご遺体もエンバーマーのみが持つ特別な技術により、生前の元気な頃の姿に修復できる可能性があります。
4.故人をきれいな姿で見送りたい場合
エンバーミングは、遺体の外観を美しく整える効果もあります。故人の生前の面影を残し、美しく見送りたいという遺族の願いを叶えることができます。エンバーミングでは、遺体の洗浄、消毒、化粧などを行い、故人の容姿を美しく整えます。
5.海外からご遺体を搬送する場合
海外への遺体輸送を希望する場合、受け入れ国の法律でエンバーミングが義務付けられている場合があります。また、エンバーミングを行うことで、遺体の状態を良好に保ち、スムーズな輸送を可能にすることができます。
エンバーミングが必要ではない場合
エンバーミングの必要性が低いのは以下の場合です。
- 費用に余裕がない場合
- ご遺体に傷をつけたくない場合
- 故人が亡くなってから火葬するまで日数が空かない場合
1.費用に余裕がない場合
エンバーミングの費用の相場は約15~25万円です。施術費などの基本料金のほかに、ご遺体の搬送費や施術までの安置費、損傷の具合による追加費用などが別途かかることがあります。葬儀にもそれなりの費用がかかり、エンバーミングを選択することが難しい場合もあります。
2.ご遺体に傷をつけることに抵抗がある
エンバーミングを行う際に1〜2cmの小切開が必要で、血液・体液を排出したり保全液を注入したりするためにやむを得ない工程ですが、これに対して抵抗を感じる遺族もいます。
3.故人が亡くなってから火葬するまで日数が空かない場合
亡くなってから日数を空けず、火葬できる場合は長期保存する必要がないため、エンバーミングをする選択は低くなります。
エンバーミングは、必ずしも必要ではありません。宗教上の理由や、経済的な事情などから、エンバーミングを行わない選択をする方もいます。エンバーミングを行わない場合、遺体の保存期間は短くなりますが、エンゼルケアや死化粧など、遺体を美しく整えるための代替方法があります。
エンバーミングを行わない場合の代替方法
エンバーミングを行わない場合にも、いくつかの代替方法があります。それぞれの方法には特徴や費用面での違いがあるため、状況に応じて選ぶことが重要です。
以下では、エンバーミングを行わない場合の代表的な代替手段を紹介します。
1. ドライアイス処置
ドライアイスを使用してご遺体を冷却し、腐敗を遅らせる方法です。費用は1日あたり5,000円〜10,000円が相場で、葬儀までの期間が短ければ比較的安価に抑えられます。
ただし、ドライアイスはご遺体の一部にしか効果が及ばないため、冷却が不均一になることや、皮膚が黒ずむリスクがある点には注意が必要です。また、ドライアイスの使用はご遺体に10kg前後の重量をかけるため、精神的な負担が大きいと感じる遺族もいます。
2. 保冷庫での安置
保冷庫は、一定の温度でご遺体を保存できるため、ドライアイスよりも見た目を保ちながら腐敗を防ぐことが可能です。費用は1日あたり約1万円が相場で、日数に比例して増えていきます。
保冷庫安置は特に暑い季節に効果的ですが、納棺後であることや、時間に制限があり、対面できる時間が限られている点はデメリットといえます。
3. エンゼルケア・湯かん
エンゼルケアや湯かんは、亡くなった方の清潔さを保ち、故人を美しい状態で送り出すための処置です。湯かんではお身体をぬるま湯で清め、着替えやお化粧を施すことで、故人の見た目を整えます。
エンゼルケアは医療従事者が行う死後の処置で、お身体をタオルで拭き、綿詰めやお口のケアなどを行います。費用は湯かんが5万円〜10万円、エンゼルケアは医療機関によって異なります。
これらの処置はお身体を傷つけることなく、ご遺族が最後のお世話をする場としても大切な時間となりますが、腐敗防止の効果はないため、葬儀までの日程が空いてしまう場合には他の手段と併用することをおすすめします。
4. 葬儀日程の調整
エンバーミングを避けたい場合、可能であれば葬儀の日程を早めることも検討しましょう。火葬までの期間が短ければ、腐敗のリスクを最小限に抑えつつ、特別な処置を行わずに自然な形で送り出すことができます。
葬儀場や火葬場の混雑状況にもよりますが、適切なスケジュール調整を行うことは有効な手段の一つです。
後悔しないお別れのために
最後の選択肢を決定する際のポイント
エンバーミングは、故人との最後の別れを美しく、心穏やかに過ごすための手段の一つです。しかし、エンバーミングは必ずしも必要ではありません。故人の遺志や家族の希望、経済状況などを考慮し、後悔のない選択をすることが大切です。
エンバーミングを行うかどうかは、故人との最後の別れ方をどのようにしたいのか、家族で話し合い、納得のいく結論を出すことが重要です。
葬儀社選びの注意点
エンバーミングを行う場合、葬儀社選びは、エンバーミングに関する知識や経験が豊富な葬儀社を選ぶようにしましょう。
葬儀社の中にはラストメイクやエンゼルケアを「エンバーミング」と偽って、勧めてくる葬儀社もあるかもしれません。
エンバーミングは設備が揃った限られた施設でしか、行うことができません。日本遺体衛生保全協会(IFSA)のホームページ上に各都道府県のエンバーミングセンター案内があるので、該当の施設で処置が行われるのか確認するようにしましょう。
また、エンバーミングの費用や内容について、事前にしっかりと説明を受けることが大切です。後々、後悔することがないように安易な選択はさけるようにしましょう。
ラストメイク
ラストメイクは、故人のお顔にメイクを施し、生前に近い美しい姿に整えることを目的とした処置です。化粧直しや髪のセット、場合によっては着替えなども含まれ、最期のお別れの場にふさわしい見た目を整えることに重点が置かれます。
ラストメイクは、葬儀会社や専任の技術者が行い、一般的には葬儀前に行われるオプションサービスとして提供されます。
- 主に化粧やヘアセットなどの見た目を整えるための施術
- 故人が生前の姿に近づけるように行われる
- お別れの場に適した見た目を重視
エンゼルケア
エンゼルケアは、医療従事者や看護師が行う死後処置で、身体全体のケアが中心です。タオルでお身体を拭き、お口や目のケア、綿詰めなども行い、清潔を保つことを目的としています。
エンゼルケアは医療機関で亡くなった方に対し、病院や施設で提供されることが一般的です。
- 医療従事者による清潔保持を目的とした処置
- タオルでお身体を拭く、お口や目のケア、綿詰めや着替えが含まれる
- メイクや外見の美しさよりも、清潔さと尊厳を保つことに重点
まとめ
エンバーミングを行わない場合には、ドライアイスや保冷庫での安置、湯かんやエンゼルケアといった代替手段があります。
それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるため、費用面やご遺族の意向に応じて最適な方法を選びましょう。また、日程調整なども視野に入れることで、エンバーミング以外の選択肢が広がります。