日本の葬式は主に仏教が基盤であり、宗派によって細かな作法が異なります。仏教以外の葬儀についても様々な特徴があります。
この記事では、仏教を含む4つの代表的な宗教とその宗派に焦点を当て、葬儀の特徴や流れ、マナーを紹介します。宗教や宗派がわからない場合の調べ方も提示し、宗教宗派による葬式の違いを知りたい方や宗派を知りたい方のお役に立てれば幸いです。
代表的な宗教の一覧
日本では、主な宗教は以下の4種類になります。
- 仏教
- 神道
- キリスト教
- その他
文化庁がまとめた『宗教年鑑(令和4年版)』によると信者数の割合は、仏教:46.4%、神道:48.6%、キリスト教:1.1%、その他の宗教:3.9%と、半数以上が仏教以外の宗教を信仰しています。仏教式の葬式では正しいとされるマナーが、仏教式以外の葬式では不適切とさるケースがあるため注意を払う必要があります。
宗教ごとの葬儀の違い
日本では多くの葬儀が仏教式で行われていますが、ほかに神式葬儀(神葬祭)、キリスト教式の葬儀も行われます。また、無宗教式という方法もありますが、主なものはこの3つです。ここでは各宗教の葬儀の特徴を見ていきましょう。
仏教式の葬儀の特徴
- 僧侶による読経で故人を葬送し、僧侶によって故人に戒名を付ける。
- 参列者はお焼香を行い、故人の成仏を祈ります。
- 数珠を片手に合掌をする。
神道の葬儀(神葬祭)の特徴
- 神職が祭詞(さいし)と祭文(さいもん)を唱えます。
- 玉串奉奠(たまぐしほうてん)を行う。
- 参列者は、玉串を捧げて礼拝などを行います。
- 数珠は使用しない。
キリスト教の葬儀の特徴
- 神父、牧師が教会で行います。
- お焼香はあげず、代わりに一輪の献花を手向けるのが一般的です。
- 聖歌・讃美歌斉唱
- プロテスタントでは「御花料」、カトリックでは「御ミサ料」と書かれ、百合の花または十字架の文様がついた不祝儀袋を用意します。
国内の主な宗教・宗派一覧
宗教 | 宗派等 |
---|---|
仏教 | 浄土宗 |
浄土真宗 | |
浄土真宗本願寺派 | |
真宗大谷派 | |
日蓮宗 | |
天台宗 | |
真言宗 | |
時宗 | |
融通念仏宗 | |
臨済宗 | |
曹洞宗 | |
黄檗宗 | |
法相宗 | |
律宗 | |
華厳宗 | |
神道 | 神道 |
キリスト教 | カトリック |
プロテスタント | |
その他 | 創価学会 |
天理教 | |
無宗教 |
仏教の主な宗派とは
戦前,宗教団体法以前,公認された仏教宗派には,13 宗56 派があった。13 宗とは,法相宗・華厳宗・律宗・天台宗・真言宗・融通念仏宗・浄土宗・臨済宗・真宗・曹洞宗・日蓮宗・時宗・黄檗宗(成立順)である。昭和14 年,宗教団体法が成立したとき,これらの宗派は,28 宗派にまとめられた。13 宗56 派と28 宗派の関係は,次頁のとおりである。
引用:『宗教年鑑(令和4年版)』より
日本八宗
日本の代表的な仏教の八つの宗旨のことを日本八宗といい、天台宗・真言宗・浄土宗・浄土真宗本願寺派・浄土真宗大谷派・臨済宗・曹洞宗・日蓮宗を指します。
日本にある仏教宗派のうち、一番信者数の割合が多いのは「浄土真宗」です。浄土真宗本願寺派と真宗大谷派をあわせた人数の合計は1,507万人にのぼり、日本八宗だけでみると約32.7%の割合を占めています(文化庁『宗教年鑑(令和4年版)』より)。
次いで信者数が多いのが約13.4%の「浄土宗」で、浄土系の割合が計約47.8%と半数近くを占めています。
仏教宗派による葬式マナーの違い
宗派 | 開祖 | お経 | 焼香 | 香典 |
---|---|---|---|---|
浄土真宗本願寺派(お西) | 親鸞聖人 | 南無阿弥陀仏 | 抹香をつまんだまま、額に押しいただかずにそのまま香炉に落とす | 御仏前または御香典 |
真宗大谷派(お東) | 親鸞聖人 | 南無阿弥陀仏 | 抹香をつまんだまま、額に押しいただかずにそのまま香炉に落とす。これを2回行う | 御仏前または御香典 |
浄土宗 | 法然上人 | 南無阿弥陀仏 | 焼香の作法について、特に決まりはなく回数は3回、もしくは1回 摘んだお香は額に掲げ上げても、上げなくてもよい | 御霊前または御香典 |
日蓮宗 | 日蓮 | 南無妙法蓮華経 | 抹香をつまんだまま額に手を持っていき、香炉に落とす。正式には3回となりますが、一般参列者の場合は1回 | 御霊前または御香典 |
曹洞宗 | 道元禅師 | 南無釈迦牟尼仏 | 1回目は抹香をつまんだまま額に手を持っていき香炉に落とす、2回目はそのまま香炉に落とす | 御霊前または御香典 |
臨済宗 | 栄西 | 南無釈迦牟尼仏 | 抹香をつまんだまま、香炉に落とす。焼香は1回だけにするのが基本です。 | 御霊前または御香典 |
天台宗 | 伝教大師最澄 | 南無阿弥陀仏/南無釈迦牟尼仏 | つまんだ抹香は額に掲げ上げても、上げなくてもよい。焼香回数は3回、もしくは1回 | 御霊前または御香典 |
真言宗 | 弘法大師空海 | 南無大師遍照金剛 | 抹香をつまんだまま額に手を持っていき香炉に落とし、3回焼香を行う。参列者の数によっては、焼香を1回に短縮する指示が出ることもあります。 | 御霊前または御香典 |
葬儀の宗派がわからないときは
日本国内で行われる葬式の多くが仏式葬儀(仏教の葬儀)だと言われていますが、仏式には様々な宗派があり葬儀の作法もそれぞれ異なります。
葬儀を行う際にも宗派が分からないと葬儀で読経してもらう僧侶のスケジュールを押さえるこもできないため、葬儀の日程をきめることもできません。
ここでは宗派の代表的な調べ方を以下に挙げていきます。
- 親戚に確認する
- 菩提寺に確認する
- 仏壇の位牌や戒名を調べる
- お墓の文字を確認する
①親戚に確認する
先祖代々同じ宗派を信仰していると思いますので、親族であれば家の宗派を把握している可能性があります。まずは父方の兄弟など、親戚に尋ねてみましょう。
②菩提寺に確認する
先祖代々お付き合いしているお寺、菩提寺の連絡先を把握している場合は、直接聞いて確認しましょう。菩提寺とは、先祖代々付き合いのある寺院のことです。
③仏壇の位牌や戒名を調べる
仏壇の位牌や戒名にどんな文字が使われているかを見ることで宗派を判別することができる場合があります。宗派による戒名の文字の特徴を例としていくつかご紹介します。
【浄土真宗】
位牌は作らず法名軸や過去帳に法名(戒名)を書くことが多いです。法名として男性は「釋」「釈」という文字が入り、合計で3文字または6文字になることが、女性は「釋尼」「釈尼」が入り合計で4文字または7文字となることが多いです。
【浄土宗】
戒名に阿弥陀如来を表す梵字である「キリーク」が頭に入り、戒名の中に「誉」という文字が入ることが多いです。
【日蓮宗】
法号には「日」という字を入れ、男性は「法」、女性は「妙」という字が戒名に入ることが多いです。また、頭の部分に「妙法」が使われていれば日蓮宗だと考えて間違いありません。
【曹洞宗】
戒名の先頭に釈迦牟尼仏を表す梵字「バク」や「空」が入る場合があります。
【臨済宗】
戒名の先頭に釈迦牟尼仏を表す梵字「バク」や「空」が入る場合があります。
【天台宗】
戒名の先頭に、阿弥陀如来を表す「キリーク」や大日如来を表す「ア」、釈迦如来を表す「バク」という梵字が使われます。
【真言宗】
戒名の先頭に大日如来を表す梵字「ア」入れることが多いようです。子供であれば梵字「カ」が入ることが多いです。
仏壇の違いから宗派を見分ける
仏壇は、宗派によって祀られている御本尊などが異なるため、仏壇を確認することである程度宗派を見分けることができます。
宗派 | 御本尊 | 脇侍(脇掛) |
---|---|---|
浄土真宗本願寺派 | 阿弥陀如来(掛け軸の場合が多い)後光の数が〈8本〉 | 右:親鸞聖人 左:蓮如上人 |
真宗大谷派 | 阿弥陀如来 後光の数が〈6本〉 | 右:親鸞聖人 左:蓮如上人 |
浄土宗 | 阿弥陀如来 | 右:善導大師 左:法然上人 |
日蓮宗 | 大曼荼羅 | 右:大黒天 左:鬼子母神 (関西の場合は左右が逆) |
曹洞宗・臨済宗 | 釈迦如来 | 右:承陽大師道元 左:常済大師瑩山 |
天台宗 | 釈迦如来(釈迦牟尼仏)あるいは阿弥陀如来薬師如来大日如来観世音菩薩 | 右:天台大師智顗 左:伝教大師最澄 |
真言宗 | 大日如来 | 右:弘法大師 左:不動明王 |
④お墓の文字を確認する
お墓の形状は宗派によって大きく異なりませんが、刻まれている文字にそれぞれの宗派の特徴があります。
例えば、浄土真宗の場合は「南無阿弥陀仏」または「倶会一処」と彫られていて、戒名に「釈」の文字がある場合は、高確率で浄土真宗となります。
浄土宗の場合は戒名の前に「誉」を入れたり、阿弥陀如来を表す梵字が彫られているか、「南無阿弥陀仏」と彫られています。
菩提寺や霊園にお墓を立てている場合は管理運営している会社が宗派を把握していることもあるので、確認してみてもいいでしょう。
まとめ
葬儀といっても、いろいろな形があり、その意味や流れは宗教・宗派によって違います。誰しもが未経験の葬儀の場面ですが、概要を押さえておけば、喪主になったときや参列したときに慌てることはありません。
現在は宗教儀礼にこだわらない無宗教形式の葬儀を選ぶ方も増えています。どうしても宗派がわからないときは、無宗教のお葬式で故人を見送るのもひとつの手段です。
ただし、無宗教葬を行うと菩提寺の納骨堂やお墓に納骨できなかったりする場合もあるため、宗派がわからないからといって安易に無宗教葬を選ぶのはおすすめできません。まずは親族やお寺に確認した上で、最終的に判断すようにしましょう。